voice

「人の生命」

 俺が、梶芽衣子さんの音楽制作とプロデュースをやる事になったのは
 皆もすでに知っていると思う。
 
 デビューした時の事務所にいたある方がいます。
 その時は口もたやすくきけない程に上に立っていた方。
 
 俺はね、音楽を作る事は絶対の自信がある。
 でもそれ以外の裏の事。
 例えば契約事や、数字の事、様々な権利の管理、配分、
 そして営業やレコード会社とのパイプなどは見よう見まねの素人だ。
 BLOODや自分の事は、この世で一番シンプルなやり方で進めてきたから。
 
 だけど今回、梶芽衣子さんをリリースするにあたり、
 スケールの尺を変えなくてはならない。
 テイチクというメジャーの流通網を使い、芽衣子さんの音楽は世に放たれる。
 
 いわゆるそれに伴う音楽以外の事。俺には分からない事も多い。
 知らないではいけないから、これを機にいろいろと知ってゆくつもりだった。
 
 
 だから、その方にすべてを任せ、そして委ね、音楽制作に集中した。
 
 「シン君、梶さんは大スターだ。
 これを機にプロデューサーとして音楽以外の事も
 学びプロにならなきゃね。」と何度も言われた。
 
 
 そして…
 
ついこの間。1月30日。
 テイチク本社で、梶芽衣子リリースの全体スタッフ会議があった。
 その後その日にすべての契約などを行うつもりだった。
 もちろん俺も立ち会うつもりでいた。
 
 前日、夜、「明日の件ですが」とメールを出した。
 いつもならすぐに返信か、電話が必ず入る。
 
何もなくて少し嫌な予感がした。
 
その時…ご自宅で急死されていた。脳だ。
 
 朝、梶さんのマネージャーから電話が入る。
 「あんた、彼が亡くなったって今電話が入ったけど本当?
 なにがなんだか状況が分からないのよ。知ってる?」と。
 
 俺は寝ぼけてしたし、まったく信じられず、
 亡くなったって…でもその後、すぐに俺にも電話が入って現実に戻された。
 
 なんの予兆もなく、ここ最近も元気で、
 梶芽衣子さんの仕事も成功させるべくやる気に満ちていたと…。
 
 俺への返信はないまま。
 俺の携帯にはまだ熱のあるメールがたくさん残ったまま。
 
 どうなってるんだよ神さんよ!
 
 と心底俺は天を恨んだ。
 
 なぜ!?
 
 やみくもに生命取るな!
 
 そう怒った。
 
 と、同時に、なにをどうすれば?
 これからどうすれば?
 やらなきゃいけない事がなんなのかすら分からない。
 頑張れと言われても頑張る事が分からない。
 
 真っ暗闇。ほんの一瞬、逃げてしまいたくなった。
 
 冥福を祈る前に俺は四方八方高い壁に囲まれた。
 
 リリースは告知されている。CDの予約も開始されている。
 発売記念のLIVEもチケットが発券されている。
 
 鈴木慎一郎はこのプロジェクトのリーダーだ。
 
 全部が重くのしかかる。
 
 なんの試練だよ。こんなのルール違反だよ。
 
 涙も出やしなかった。
 
 一晩考えた。
 
 鈴木慎一郎の唯一といってもいい売りはなんだ?
 
 気を強く持ち、絶対に諦めない事だ。
 摩擦しても喧嘩してもいつか分からせてやる!と、どんな時でも一歩出す事だ。
 
 皆のさ…ファンのさ。全国のファンの顔がぼんやりと浮かんだんだ。
 
 かっこつけるその時か!?
 
 いや違う。
 
 かっこなんてもんじゃなくて、
 
 
 オトコマエな生き方を!
 
 そうしなきゃ俺を信じる奴らが悲しむ。
 
 そう思えたんだ。
 
 人の死がさ
 
 上手く言えないが。
 
 人が最後に行う仕事はなにか。
 
 それは、残された者に生きる意地と
 パワーとありったけの負荷をかける事だと俺は思う。
 10代の頃同級生が事故で死んじまった時にSWEET STORIESを書いた様に。
 そしてそれがすべての始まりとなった様に。
 
 きっと何かあるんだ。
 
 「どうしよう、何も出来ない、怖い。」
 
 うつむく事ではない。そんなの世間の大半の奴らと同じじゃないか!
 
 それじゃ進めない。それを俺は知ってるじゃないか!
 お前は何度もそんな経験を背負ってここまで来たじゃないか!
 
 と自分に言い聞かせた。
 
 悲しみや絶望にふさがれた時に人はうつむき嘆く。
 そして時を止めてしまう。 きっとそれが大半だろう。
 それでいい場合もある。 それは理解している。
 
 でも俺はそれじゃダメなんだ。いけないんだ。
 
 なぜか。
 
 俺が少しだけ人の前を歩み、人に何かを、情熱を、愛を。
 怒りを、力を音楽という崇高なもので与えなくてはならないからだ。
 
 うつむいたり嘆いたり、壁に塞がれた奴らの為に歌ってきたと言ってもいい。
 
 ここだ。ここだ。全身から力を出して前進すべき時は。
 
 誓った。逃げないと。
 
 様々なアーティストが悲しんでいるだろう。
 歴史もあった人だから。
 そして今一番近くにいてタッグを組んで仕事をしていたのが俺と彼。
 
 俺のレーベルはいずれシン君が継げ。
 今回の芽衣子さん、本当にいい曲だ。頑張ろう!
 
 たくさんの言葉が脳裏に浮かぶ。
 それもつい何ヶ月のたくさんの言葉や顔が浮かぶ。
 
 くそったれ。神さんよ!
 だけど俺はそんなに弱くはない。
 また俺を成長させるつもりか?
 望むところだ。
 
 俺と神さんの勝負だ。
 
 リリースを実現させる。
 
 時間がない。リリース延期かなど諸々、プレスも含め、
 レコード会社からも数日しか期限がない事を知らされる。
 契約書も彼のPCに入ったままだった。
 
 制作費など、お金の事はさて置き、
 
 難しい契約、権利分配、出版、などのどうしようもない事もある。
 
 真っ先に俺が頭を下げたのが…
 
 
 そう。
 
 豊嶋さんです。
 
 18.19の俺の事を始めて見つけてくれ、月光さんに音楽を託され、
 マネージメントをしてくれて、デビューさせてもらった恩人。
 エステー企画の社長の豊嶋さん。
 俺の中では2人目のオヤジの様なものなんだ。
 
 次の日に俺は電話し、「明日会えませんか?」
 
 伝えた。
 
 すごいね。
 
 会った瞬間、
 
 「で、梶さんの件だろう?どうしたんだ?」
 
 全部お見通しだった。
 
 無我夢中で説明した。
 
 でも、説明途中で話を遮られた。
 
 即答だった。
 
 「私が権利も原盤も管理してやるから大丈夫だ。
 かわいい慎一郎の頼みだ。 私がやってやる。
 そのかわりな、お前がちゃんとしっかりとリードして進めなきゃだめだぞ。
 俺がテイチクを呼んで話も聞いてみるから。」
 
 それも笑顔で。何の損得もない愛情がそこにはあった。
 
 俺は帰りの車で少し涙を流した。
 
 デビュー前の事。
 始めて豊嶋さんに面接でお会いした時の事。
 その大事な面接で、恵比寿なんて洒落た街が初めてだった俺は、
 二時間半遅刻して、もういいです、辿り着けないんで面接しなくていいです、
 と電話した事。
 そしてそれでも待っててくれて、笑顔でウチに来なさい。と言ってくれた顔。
 
 全部。全部思い出した。
 
 デビューしてからもあんなにやんちゃで、
 迷惑をかけた俺をあたたかくずっと支えてくれているんだ。
 
 やれ、ラジオがいやだ!ROCKじゃねえ!なんて無断でボイコットしてすっぽかしたり、
 一本ドラマに出させていただいた後に、もうドラマなんて出たくない!歌いたい!
 芝居をする為にここに入ったんじゃないんです!生意気ばかり。
 
 どれだけ豊嶋さんの顔に泥を塗っただろう。
 
 レコーディングを途中で抜けて、事務所のキッチンに閉じこもり、
 「もうこんなあやつり人形は嫌だ!歌も歌いたくない!」と叫んだ事もあった。
 
 それでも俺が事務所を去る時。
 
 「慎一郎、すまんかったな。」とうっすら目に涙を浮かべてくれた。
 
 結局俺はずっと豊嶋さんに守られてきたのかも知れないね。
 
 菜々子ちゃんは国民的にスターになったけど、
 俺は今のとこどうやら超がつく程の遅咲き派なんでさ、(笑)
 オマエラの中でのスター(笑)で留まっているけど。(笑)
 
 俺は必ずやり遂げて、芽衣子さんにも、
 そして豊嶋さんにも恩返しをしなければならない。
 
 そして自分自身の音楽がさらにさらに大勢の人々の心に響く事。
 それこそが恩返しであるんだ。
 
 自分自身の音楽を。俺は120%信じている。
 
 いつか必ずや、たくさんの人々の心に響くだろう。
 
 そして気がつくはずさ。
 
 この世界一真っ白な、何の邪念も曇りもないメロディーに。
 
 俺が歌おうが誰かの声だろうと関係ない。
 俺は音楽人だ。
 メロディーにありったけを注ぐ。
 
 その日が来るまで俺は今日も明日もずっとずっとギターを抱えメロディーを産むだけだ。
 
 誰よりも真剣に。
 
 誰よりもまっすぐに。
 
 誰よりも熱く。
 
 誰よりも愛を持って。
 
 それが俺の生きる道なんだ。
 
 負けない。
 
 自分の魂にだけは。
 
 精一杯のこのすべてを捧げる。
 
 お願いだ。
 
 届いてくれ。
 
 死んでしまったあなたのもとへ。
 
 やり抜くから。
 
 本当に人の生命は分からない。
 
 さよなら?
 
 残念?
 
 違うね。ふざけんなよ。
 
 また今度。ありがとう。あなたのおかげで笑っていますと言える強さを身につけます。
 
 そう思いながら送り出すべきだと俺は思うんだ。
 
 皆!
 
 梶芽衣子3.22リリースのシングル「凛」
 俺の魂が注がれています。
 ファンが聞いたら鈴木慎一郎の現段階での最高のサウンドだな、
 と思ってくれる様な曲だ。
 予約して聞いてみて欲しい。
 
 お願いします。
 
 亡くなったあの人へ届け!
 
 
 
鈴木慎一郎